こんにちは、まめおです。
前回の記事では自由民主党住宅土地・都市政策調査会の中古住宅市場活性化小委員会から「中古市場に流通革命を」という中古住宅市場活性化に向けた提言のうち、特に提言4を中心に見てきました。
【提言4】
担保評価を含む 「 20年で一律価値ゼロ 」 とみなす市場慣行の抜本的改善
そのなかで「早急に取り組むべき事項」として下記2点が提示されています。
- 不動産鑑定評価手法の一つである原価法などの建物評価ルールについて、中古のおうちにおける部位ごとの単価を把握するなど適切に再調達原価を査定し、建物の性能やリフォーム等の状況を耐用年数に適切に反映するなどの抜本的な見直しを行う。
- JAREA HAS(Japan Association of Real Estate Appraisers house appraisal system)を上記見直しに併せて改善し、鑑定評価の現場における活用を推進する。
この内容は今までの不動産鑑定評価基準と何が違うのでしょうか?
今回は建物評価の精緻化にむけた取り組みのうち「不動産鑑定評価基準の改正」と「JAREA-HAS2015を用いた建物評価」について見ていきたいと思います。
この記事を読むことによって、中古住宅市場活性化にむけた取り組みのうち「建物評価の精緻化」の具体的な内容を理解することができ、今後の建物評価のあり方などについてイメージすることができるようになると思います。
不動産鑑定評価基準の改正
中古住宅市場活性化の議論に呼応する形で不動産鑑定評価の手法についても見直しが行われてきました。
平成26年の不動産鑑定評価基準の改正及び平成27年7月の既存戸建住宅の評価に関する留意点の通知等の要旨をみておきたいと思います。
建物の個別的要因の充実
従来の鑑定評価基準では、土地についての個別的要因に比べ建物はやや薄い感がありました。
今回の基準改正等では建物の各用途に共通する個別的要因と、建物の用途ごとに特に留意すべき要因について例示されています。
【特に留意すべき要因】
- 住宅
- 事務所ビル
- 商業施設
- 物流施設
【おうちに関する個別的要因】
- 屋根
- 外壁
- 基礎
- 床
- 内装
- 間取り
- 台所・浴室・便状等の給排水設備
- 衛生設備の状況 など
【既存戸建住宅の評価に関する留意点】
- 構造・工法、建築時期、間取り等の基礎的情報の確認
- 建物の性能、維持管理の状態、私法上及び公法上の規制・制約等を十分に調査すべきとされています。
【実務指針】
住宅性能表示における長期優良住宅の認定基準についての概要も記載するように規定されています。
未竣工建物等の評価が可能に
対象確定条件に未竣工建物等の鑑定評価が加えられています。
これにより価格時点において竣工していない、或いは工事が完了していない状態であっても、一定の要件を満たせば工事が完了した状態を所与として鑑定評価ができるようになっています。
中古のおうちにあてはめると、リフォームを実施した場合の価値を把握するために鑑定評価を活用できるようになりました。
実施済リフォーム工事等の評価への反映
原価法において、建物の増改築・修繕・模様替え等の内容を再調達原価の査定に適切に反映させなければならないと加筆されました。
中古のおうちでリフォームが行われた場合、リフォーム前と比較してグレードアップしているのか同等なのかについて、対象不動産の状況をよく確認して再調達原価に反映させることが求められるようになりました。
減価修正の精緻化
- 減価修正については耐用年数に基づく方法と観察減価法を併用すること。
- 耐用年数に基づく方法では経過年数と経済的残存耐用年数を判断して、結果として耐用年数がでてくることが再確認されています。
耐用年数概念の確認
- 長期優良住宅であれば基礎・躯体の耐用年数は100年超のものもあると言われています。
- 仕上げ・設備等にリフォームがなされ適切な維持管理がなされていれば、建物全体として按分され残存耐用年数は相当長くなることが確認されています。
- もちろん空調などの設備は取り替えても残存耐用年数は15年未満と判断されます。
- 建物の部位ごとに耐用年数を適切に判断していくことが必要になります。
- これまでに出された通知等の中で「実質的経過年数」という単語が用いられていますが、不動産鑑定士が判断する経過年数はそもそもこの実質的経過年数の考え方を含む概念であることが明確にされています。
JAREA-HAS2015を用いた建物評価
【JAREA-HAS2015とは】
- 既存戸建住宅評価の精緻化の流れを補完するために(公社)日本不動産鑑定士協会連合会において開発されたシステムです。
- 不動産鑑定評価基準の改正等を評価実務において具現化するツールであり、中古住宅の適正評価に役立つものと期待されています。
精度の高い再調達原価の査定や減価修正が可能
- (一財)建築物価調査会の再調達原価査定システム(JBCI)を組み込んでいます。
- 戸建住宅について、地域・規模・建物の性能やリフォームの状況を反映した精度の高い再調達原価の査定が可能となっています。
- 建物を基礎・躯体・屋根・外部仕上げ・内部仕上げ等の11の部位毎に再調達原価の把握を可能としています。
リフォームの影響等を適切に反映させることが可能
- リフォームにより取替が行われた部位については経過年数に反映させ、適切な減価を把握することが可能となっています。
- 建物の部位毎に経年に伴う価値の減少や修繕が必要な部分を反映させることができ、耐用年数に基づく方法と観察減価法の対象となる部分を区別して減価修正することが可能となっています。
まとめ
いかがでしたか?
建物評価の精緻化について、不動産鑑定評価基準等の改定の経緯及び(公社)日本不動産鑑定士協会連合会が開発したJAREA-HASの特徴を中心に見てきました。
おうちを構成する土地と建物におけるリスクは異なるものの、今までは土地のみが重点的に見られ、建物については軽視されてきたきらいがあります。
また、維持管理の状態やリフォームの有無など、一つとして同じ状態の建物は世のなかには存在しません。
- 土地は価値変動リスク
- 建物は減価リスク
建物は個別に対象物件を見て判断するしかなく、隣のおうちであっても、スペック・コンディションは異なり、一つとして同じものはありません!
全国的に見た場合、一般に地方のおうちは売買価格総額に対して建物価格の占める割合が都会に比べ高くなる傾向にあります。
と言った潜在的売買意欲を具現化するために、金融商品の拡充や担保評価の見直しが不可欠です。
これからは建物評価を適切におこない全国の中古のおうち市場に適正に資金が流れることが中古住宅市場の活性化に求められているのではないでしょうか?