こんにちは、まめおです。
弁護士をはじめとする士業の世界に閉塞感が漂いはじめて久しい。
過去には「資格を取ると貧乏になります」という衝撃的なタイトルの本が話題となり、発売後一週間で増刷も決定したことがありました。
不動産鑑定士の業界を見渡してみても他士業と同じく、官需の減少や受託競争の激化によって業界全体が疲弊してきているように思います。
そのような中で平成23年6月に公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会から不動産鑑定業将来ビジョンが提案されました。
不動産鑑定業将来ビジョンなかでビジョンを実現するために取り組むことが必要な施策として次の3つが提唱されています。
- 従来の単一型ビジネスモデルから多様化型ビジネスモデルへの転換
- グローバル化への対応
- 今後業務の拡大が期待される分野への注力(官需から民需へ)
【住宅に関する分野から】
①個人が既存住宅を購入する際の評価やアドバイザリー
②住宅ローン融資等の担保評価
③リバースモーゲージの裏付資産の評価及び相続に関連した評価やアドバイザリー など
従来型の鑑定評価にとらわれることなく、社会の求める不動産情報サービスを提供することにより社会の多様なニーズにどのように応えていくのか?
私自身、将来ビジョンについて真摯に向き合い、考え・行動に移すことなく日々の業務に追われていたものの、最近になって中古住宅流通市場の活性化という言葉を聞く機会が多くなってきました。
なぜ今、中古住宅流通市場の活性化なのか?
今回は中古住宅流通市場の活性化の端緒となった日本の住宅市場をとりまく状況を見ていきたいと思います。
この記事を読むことによって、日本の住宅市場の実情を把握し社会のニーズを探り、今までと全く違った発想を生み出す試金石をイメージすることができればと思っています。
住宅市場をとりまく状況
国勢調査
大都市圏では2010(H22)年をピークに人口減少に転じる一方で、地方部では早期に人口減少に転じており、今後さらに減少する見込みとなっています。
住宅ストック数
- 2008(H20)年で約5,760万戸となっており、総世帯数約5,000万世帯に対し量的には充足しました。
- 多くの世帯で単身世帯が増加するなど、人口・世帯構成の変化から、住宅ストックのミスマッチが今後も拡大を続ける見込みとなっています。
住宅・土地統計調査
- 空き家の総数は約800万戸以上とこの20年で倍増しています。
- 空き家の種類別内訳を見ると、「賃貸用住宅」が最も多く、つぎに「その他住宅のうち一戸建」が多い状況となっています。
滅失住宅の平均築年数
- 日本は約32.1年
- アメリカは約66.6年
- イギリスは約80.6年
住宅投資累計
- 日本は約862兆円の住宅投資累計に対し現在の住宅資産総額は約343兆円と500兆円近くも住宅資産総額が住宅投資累計を下回っています。
- アメリカは約14.0兆ドルの住宅投資累計に対し現在の住宅資産総額は約13.7兆ドルとほぼ一致しています。
全住宅流通量(既存流通+新築着工)に占める既存住宅の流通シェア
- 日本は約14.7%(平成25年)
- 欧米諸国では約7~9割
新設住宅着工戸数の推移
- 昭和43年に100万戸を越えた以降、景気の影響などにより増減を繰り返しながらも100万戸を越える水準で推移しています。
- リーマンショックにより大幅な減少が見られ40年ぶりに100万戸を下回ったものの、平成21年以降は緩やかな持ち直しの傾向が継続しています。
住宅投資に占めるリフォームの割合
- 日本は約28.5%
- イギリスは約55.7%
- フランスは約53.0%
- ドイツは約73.8%
中古住宅市場の失敗
- 築年数経過で急激に減耗する資産評価並びに価値の減耗
- 統計の未整備
- リフォーム投資が資産額に織り込まれ難い市場の実態
住宅が資産ではなく消耗品として取り扱われている実情が「中古住宅市場の失敗」と呼ばれる状況を生み出しているのが見えてきます。
ストック重視の住宅政策への転換
ニーズ1:中古住宅流通市場・リフォーム市場の規模倍増
- 住宅を作っては壊す社会から、良いものを作ってきちんと手入れして長く大切に使うという観点
- 数世代にわたり利用できる長期優良住宅の建設
- 適切な維持管理・流通に至るシステムを構築
- 消費者が安定して適切なリフォームを行える市場環境の整備
ニーズ2:住宅の「量」の確保から住生活の「質」の向上を追求
- 耐震化・エコ住宅化の加速
- 住み替えを推進することと等を通じて「広くて・耐震・エコな」住宅整備を進める
- 消費者に必要な情報の整備・提供
- 築年数を基準とした価格査定手法の見直し
まとめ
いかがでしたか?
この記事では日本の住宅市場を取り巻く状況を中心に、そこから考えられるニーズについて見てきました。
これらのニーズに対応するために不動産鑑定士の視点から考えてみますと、いきつくところは「建物評価の精緻化」につきると思います。
①住宅を大きく基礎・躯体部分と内外装・設備部分に分類し、各部位ごとに再調達にかかる原価を算出し減価修正したものを合算して住宅全体の価値を導きだす。
②リフォームについては適切な内外装・設備の補修を行えば基礎・躯体の機能が失われない限り住宅の使用価値は回復・向上するという考え方を採用する。
長期優良住宅などの性能の高い住宅は減価の速度を遅くする。例えば、劣化対策等級2の住宅は概ね耐用年数50~60年の想定に対し、長期優良住宅は耐用年数100年程度というようなメリハリをつける。
担保評価の見直しを進めるとともにリバースモーゲージやリフォーム一体型ローンなどの新しい金融商品の設計なども進めていく。
今後、不動産鑑定士は本来的な建物使用価値・経済的残存耐用年数等の研究や、JAREA-HASを駆使するための建築知識と実物建物を見極める能力等が社会から求められているように思います。
また、不動産の価値判断の専門家である不動産鑑定士が評価についてのみの提案だけではなく仕組み全体におよぶ提案を行っていく必要があると思います。
そうであるからこそ我々不動産鑑定士がリーダーシップを発揮して業界全体として取組み、社会の多様なニーズに応える新たなスキームの中において重要なプレーヤーになれるよう努力を続けていかなければならないと考えています。
そしてその先には事業者間連携のもと不動産鑑定業の新たな業務分野が広がっていることを期待しています。