こんにちは、まめおです。
いままで不動産価格は「ある一点」で表示された価格を提示してきました。
しかし実際の取引においては売り主・買い主から構成される両面市場であり、経済人として売り主は高く売ること、買い主は安く買うことがそれぞれの正義であり経済心理ではないでしょうか。
売り主は高く売りたい!
買い主は安く買いたい!
そして売り主と買い主の駆け引きは相反するそれぞれの経済心理と反する経済行動をとることから経済競争が生まれ、歩みよって成約するのが通常です。
歩み寄って成約
このような経済心理と経済行動が行われる流通の場面で「ある一点」で表示された価格をそのまま流通の現場に適用することはかえって混乱をもたらす結果になる可能性があるのではないでしょうか?
この記事では中古住宅市場活性化の場面における不動産価格の提示方法について考えていきたいと思います。
記事の混乱をさけるために、今回は建物だけを例示して見ていきます。
この記事を読むことによって、相反する経済競争に基づく現実の取引の意思決定プロセスを阻害しない概念に相応した価格の表現についてイメージすることができるようになると思います。
建物価格査定支援システムの紹介
既存住宅価格査定マニュアル
価格査定マニュアルは公益財団法人不動産流通推進センターが開発した中古戸建住宅などの査定を支援するシステムです。
価格査定マニュアルでは、新築時の単価をもとに建物の規模や耐震性、使用している部材や設備のグレードと耐用年数、リフォームや維持管理状態などを考慮して現時点の残存価格を算出します。住宅性能や省エネ設備等の付加価値が確認できれば加点され、さらに物件の外観等の現況を評価して建物価格を査定します。
価格査定マニュアル「建物部分の価格査定の考え方」より
【加味される視点】
- 規模修正率
- 新耐震基準適合性
- 建物の品等格差率
- 付加価値率(住宅性能や省エネ)
- 外観 など
JAREA-HAS
JAREA-HAS(既存住宅建物積算価格査定システム)は公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会調査研究委員会中古住宅建物査定システム化ワーキンググループが開発した不動産鑑定士が木造中古住宅の評価をするための支援システムです。
【特徴】
- 精度の高い再調達原価の査定が可能(建物の機能や実態を反映した再調達原価)
- 建物劣化状況に応じた減価修正が可能
- 住宅の長寿命化に対応可能な経年減価修正(部位別の耐用年数の導入)
- リフォーム後の積算価格の査定が可能(内外装・設備の更新による価値向上の反映)
- 建物修繕サイクルを反映した積算価格(参考)の算定 など
JAREA-HASは現行不動産鑑定評価基準の枠組みの中で作成された評価支援システムのため、不動産鑑定士自身が全ての責任を持って建物についての調査を行い最終的に価格を求めるシステムとなっています。
一方で住宅ファイル制度などにおける中古のおうちの評価については、それぞれの専門家が各専門分野について責任をもって提出した資料に基づいて不動産鑑定士が最終的に価格を査定するという前提であるため、当該部分については不動産鑑定評価基準、ガイドライン及び実務指針の改正が必要になってくるものと思われます。
基礎・躯体の機能が失われていない限り、内外装や設備の補修等を適切に行えば住宅の使用価値は何度でも回復・向上するという基本的な考え方が示されています。
価格査定マニュアルにあってJAREA-HASにないもの
住宅性能率価値率
長期優良住宅
住宅性能
維持管理
保証
融資
付加価値率
省エネルギー設備の導入
自然エネルギーの利用
セキュリティ設備の導入
デザイン性
新耐震基準適合性
外観
調査価格「ある一点」の有用性
上記の過程において査定された価格を「調査価格」と呼ぶことにします。
これは不動産鑑定評価基準において「調査範囲等条件」を設定した後に導き出される正常価格と同様の価格水準にあるものと考えられます。
一般市場の実勢価格と同義
金融機関にとっては、担保としての住宅の評価に調査価格を利用することによって審査コストの軽減や金融検査などでのエビデンスとして活用することによる事務コストの軽減が図られることが考えられます。
また、担保としての価格に当該調査価格を使用し、適正な市場価格の表示とその十分な説明、適切な維持管理を前提とした経済的残存耐用年数を明示することとその説明にあたり、当該信頼性と説得力をもって示された当該調査価格は審査に有用であると考えられます。
流通価格「幅」の有用性
実際の売買の場面において提案する価格は現実の取引の意思決定プロセスを阻害しない概念として幅をもって提示することとし、この価格を「流通価格」と呼ぶことにします。
そもそも正常価格とは「現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で成立するであろう市場価値」をいいます。
「現実」を与件としたうえである種の条件を満たす市場をいいます。
したがって売買に参加するプレーヤーの数に応じて合理的な考え方が同数あるわけであり、それに立脚した正常価格もある程度の幅が生じるものと考えることはできないでしょうか?
流通の現場には売り主が考える価格から買い主が考える価格まで幅があってしかるべきではないでしょうか。
当該正常価格の幅を上記調査価格の上下10%の範囲で便宜的に提示すること
また現実の不動産の取引価格は個別的な事情に左右されがちなものであり、その市場も正常価格が成立する条件を満たすとは限りません。
①上記調査価格の20%上限を売り主の個別的事情を考慮した「売り主側導入価格」として便宜的に提示すること
②上記調査価格の20%下限を買い主の個別的事情を考慮した「買い主側導入価格」として便宜的に提示すること
箱ひげ図で考えてみる
当該概念を端的に提示すれば下記「箱ひげ図」を用いることとなります。
箱ひげ図は変数の分布やバラツキの状態を中央値と4分位により表示しており、流通の場面で提示する流通価格は当該箱ひげ図で提示することを提案したい。
通常用いられる箱ひげ図の中央値に「調査価格」を、この中央値から上下それぞれの方向の中央値を求めその値を長さ方向に用い、この箱の上下を「調査(正常)価格上限」「調査(正常)価格下限」として表示する。
次に更にその外側に位置するものを個々の事情を反映した「売り主側導入価格」「買い主側導入価格」として定義し、さらにその外側については極外値として箱ひげ図には表示しないことを提案したい。
まとめ
いかがでしたか?
この記事では不動産価格の提示の仕方について考えてみました。
いままではある一点で当然に表現されてきましたが、そこに収斂するための意思決定プロセスを表現していく方が自然な考え方で納得できるものではないでしょうか?
流通価格の提示にこの箱ひげ図を用いることにより、流通の現場における媒介業者の無用の混乱を避け、また、売り主・買い主に対しても適正な価格の幅を提示することにより交渉に入るにあたり安心して当該住宅の価値を伺い知ることができる機会を提供できます。
そして、交渉の結果、箱ひげ図における箱(調査(正常)価格の上限~下限)の範囲内で価格が決定されていくことが期待されるところです。